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株式会社TKC発行の企業向け情報誌「戦略経営者」2025年6月号に当事務所のお客様である、葉山工業有限会社様がご紹介されました。

戦略経営者 2025年6月

◎顧客拡大

葉山工業 精密板金加工、切削加工
料理人出身の経営者が実践する迅速かつ的確な取引先対応

電気自動車(EV)、住宅設備、医療器具など、多岐にわたる大手メーカーの案件を活発に受注している葉山工業。引き合いが絶えない秘けつは、「創業以来磨いてきた精密板金加工・切削加工技術とスピード感のある取引先対応にある」と千葉忠実社長は言う。

 神奈川県横浜市にある葉山工業の工場には、レーザー加工機やベンダー(曲げ加工機)、溶接機など、ありとあらゆる製造設備が並んでいる。実際に工場をのぞいてみると、熟練の技術を持つ作業員たちが、脇目も振らずにものづくりに没頭する姿が目に飛び込んできた。
 「もともとは製品の試作を主力事業としていましたが、取引先から量産に関する要望が相次いだことから、10年前に工場を今の場所に移し、量産体制を整えました。現在は試作から量産まで、製造開発案件を幅広く受注しています」
 千葉忠実社長は自社のビジネスモデルをこう説明する。千葉社長は東京の築地にある懐石料理店の板前を経て、1998年に葉山工業に入社。製造や営業などの経験を積んだのち、2018年に父親である忠夫氏(現顧問)から事業を承継したという異色の経歴を持つ。

戦略経営者 2025年6月

千葉忠実社長

葉山工業有限会社
創 業 1972年4月
所在地 神奈川県横浜市都筑区池辺町3964番地
売上高 約3億円
社員数 16名(役員、パート含む)
利用システム FX2

失敗を糧に技術を高める

 同社では電気自動車(EV)、住宅設備、風力・原子力発電機、医療器具、半導体部品など、業界をけん引する大手メーカーと取引している。とりわけ活発なのがEVと住宅設備の部品製造で、両者だけで売り上げ構成比の半分超を占めている。
 業界を問わず、多くのメーカーからの引き合いが絶えない理由に、創業から半世紀以上かけて培ってきた高い技術力がある。千葉社長が説明したように、同社はこれまでにさまざまなメーカーからの試作案件を受注してきた。なかには自社の力量以上に高い技術やノウハウが求められるものも少なくなかったが、これらを積極的に受注するなかで精密板金加工・切削加工の技術力を磨き、取引先の要望を形にするためのアイデアを蓄積していった。
 仮に検査の段階で不合格となってしまった場合でも、なぜ不合格となってしまったのか、合格するには何をどう工夫すれば良かったのかなどを検証。その結果を他の製品づくりに生かしているという。
 「未知の仕事には恐怖がつきものですが、従業員には『ミスを恐れず、新しい仕事にも果敢にチャレンジしていこう』と伝えています」(千葉社長)
 このような失敗から学ぶ姿勢が技術力の錬磨につながり、ひいては取引先との信頼関係の形成に結びついているのだ。

全員が製造現場のリーダー

 もう一つ、スピーディーな顧客対応力も取引先からの信頼を集めている要因だ。同社では失注を防ぐべく、見積もりには原則として当日中に回答しており、内容を吟味する場合でも、依頼日から2日以内には必ず返答していると千葉社長は言う。
 「売上高の30%は、受注してから2~5日以内に納品するような短納期の取引が占めています。このような案件を取りこぼすことのないよう、見積もりの回答はなるべくその日のうちに行うように心がけています」
 とはいえ、たとえ短納期の取引であっても、受注の判断を迅速に下すことは容易ではない。なぜ千葉社長は、これほどまでにスピーディーに意思決定できるのだろうか。その謎を解く鍵は組織の体制にある。
 「例えば、6月はAさん、7月はBさん、8月はCさんといったように、工場を束ねるリーダーを月ごとの当番制にしています。当社では検査担当を含めて10人の作業員が在籍しているので、最低でも1年に1回、多い人で年に2回リーダーを務めることになります」(千葉社長)
 リーダーは自らの担当業務はもちろん、他の従業員の業務内容や進捗状況を把握しておかなければならない。千葉社長の狙いは、全員が現場をまとめる役割を経験することで、組織の縦割り意識を排除し、切削・曲げ加工・溶接等の担当をまたいだ連携を強化するところにある。
 この体制をより盤石なものにしているのが毎日の朝礼だ。同社では、朝礼時に全員がその日の業務予定を報告。その際、「今日はEV部品の切削を予定しており、この作業の労力を数字で表すと80%程度です」といったように、担当業務にかかる労力を数字で伝えることを徹底している。
 「これらを実践することで、現在どのような案件が動いているか、作業がどの程度進んでいるのか、業務に余裕があるのかなどを全員が把握できるようになりました。例えば、『明日納品の見積もりが来たけど、受けられそうか』と問いかけた場合、リーダーであるかにかかわらず、全員が明確に答えることができます」(千葉社長)
 このような取り組みを通して、多岐にわたる取引先から信頼を勝ち取ってきた同社。特に、ある大手住宅設備メーカーとの取引量は、この2年で2倍に拡大したという。

工場には最新鋭の製造設備が並ぶ
工場には最新鋭の製造設備が並ぶ

工場には最新鋭の製造設備が並ぶ

地道な営業活動で挽回

 だが、これまでの道のりは決して平坦ではなかった。特に08年の秋に発生したリーマン・ショックは、経営を揺るがす一大事だったと千葉社長は回顧する。
 「大口の取引先が倒産した結果、売り上げが半分近くまで落ち込みました」
 当時、工場長だった千葉社長は、捲土重来を図るべく地元のメーカーを中心に商談の電話をかけた。門前払いを食らうこともあったが、面談にこぎつけた会社からは持ち前の技術力が高く評価されたという。また、疎遠になっている取引先を訪ね、課題や困りごとのヒアリングや自社技術の売り込みにも尽力した。
 こうした取り組みを通して、地道に受注を増やしていった同社。ようやく光明が差し始めたところで、東日本大震災が発生する。万事休すかと思われたが、インフラ関連の受注が相次ぎ、業績は右肩上がりで回復していった。
 「懐石料理を予約するお客さまが減ったら、1000円台のランチを充実させるといったように、ピンチの際には迅速に代替策を打ち出す必要があることを、板前時代に学びました。このときの経験は今の仕事にも生きています」(千葉社長)
 最近は米国の関税政策の影響もあり、日本経済の不透明感がより一層増しつつあるが、幾多の危機に直面してきた同社なら、現下の状況も全社一丸となって乗り越えていくことだろう。
 「今年の7月には資本金を300万円から2000万円に増資するとともに、社名を『HAYAMA株式会社』へと変更する予定です。これを弾みに、さらなる成長を遂げていきたいと考えています」
 千葉社長は力強いまなざしで未来を見つめる。

コンサルタントの眼

左から林秀彌税理士、千葉社長、千葉香さん

― コンサルタントの眼

林秀彌税理士事務所
神奈川県横浜市都筑区茅ヶ崎中央44-5 カトレアビル201
税理士 林秀彌

 葉山工業さんの税務顧問に就いたのは、リーマン・ショックの傷が癒えない2009年5月のことでした。当時、大口の取引先が破たんしたことで、未曽有の経営危機に直面していましたが、当時工場長だった千葉社長を中心に再建に取り組まれ、見事業績のV字回復を成し遂げました。
 私が社長に常に言い続けていることがあります。それは「会社を成長に導くには経営計画の策定が必須である」ということ。そして「売り上げを上げて利益が残ったら、きちんと納税してほしい」ということです。千葉社長は私の助言に耳を傾け、経営計画を毎期立てておられます。
 日々の経理業務は、社長の奥さまである香さんが担当しています。最初は当事務所で記帳を代行していましたが、2018年に『FX2』を導入されました。自社で経理を行うようになったことで、取引の流れをつぶさに把握できるようになり、業績を頼りに経営判断を下す習慣が根づいたように感じています。
 このほか納税業務では『電子納税かんたんキット』を活用しており、香さんからは「会社にいながら納税ができてとても便利」と高く評価するコメントをいただいています。
 千葉社長はマネジメントの傍ら、営業も担当しています。今はこの体制で業務が回っていますが、今後の成長にはさらなる分業が不可欠です。ビジネスモデルを熟知した従業員を抜てきしたり、新たに優秀な人材を採用したりすることで成長が加速すると見ています。
 葉山工業さんが今後どのような道を歩むのか……。将来がとても楽しみです。